ご挨拶

「アジアをリズムで解きほぐす」関連プログラムを終えて

2020年夏、島の暮らしと太鼓文化の継承について現地取材する青ヶ島訪問から始まり、10月末に開催した配信ライブの終了をもって、今年夏のチェジェチョル芸能交流に関わる全てのプログラムを無事に終えることが出来ました。今回の企画に参加&協力して下さった皆様に、心から感謝を申し上げます。

コロナ禍の今年『芸能』というキーワードを元にして行った様々な対話、交流、演奏の一つ一つが、どれも本当に貴重で、多くの方に触れて貰えれば幸いです。

この企画のアーカイブ映像は誰でも、いつでも視聴できます。そして青ヶ島での現地レポートは「仔鹿ネット」の記事からもご覧になれます。ライブ動画映像や特集記事をご覧になり、何か感動が胸に届いた方、そしてチェジェチョルの活動を支援して下さる方には『配信ライブ(10/25) 投げ銭チケット』の購入をして頂ければ有難いです。皆様からのご支援くださいますようお願い申しあげます。投げ銭チケットの売り上げは、これからの活動資金に充てさせていただきます。

これからも舞台表現者として、そして地域,郷土芸能に携わる者として、一つずつ努力を積み重ねて行きたいと思っています。

崔 在哲(チェジェチョル)

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『アジアをリズムで解きほぐす』8月~10月

・伊豆諸島 青ヶ島にて還住太鼓の現地取材と「12時間太鼓」への参加

・「日韓オンライン芸能交流会」を「12時間太鼓」の関連プログラムとして実施

・「配信ライブ from 渋谷公園通りクラシックス」の開催とアーカイブ映像の配信

芸能におもいをよせて

コロナ禍「芸能」と触れ合ったチェジェチョル随筆

今回の企画を打ち出す当初から、本当に多くの方々に助言とサポートを受けました。知恵とエネルギーを分けて下さった皆様には、心から感謝の気持ちでいっぱいです。社会全体が大きく揺れるコロナ禍で『芸能とは何だろうか?』と自問自答する日々が続きました。多くの舞台公演が中止となる時代、祭りや地域のイベントも中止や大幅な規模縮小をせざる得ない事態が今尚、続いています。

昨年の12月、国際文化交流プログラムで、韓国から招聘したイムスンファン氏と二人で初めて伊豆諸島 青ヶ島を訪れました。小中学校の生徒達に、韓国の芸能「プンムル」を伝え、そして島の芸能「還住太鼓」を教わりました。伊豆諸島の小さな島で生まれた日韓芸能国際交流は、とても温かく、そして激しく盛り上がり、島の学生は勿論、その親御さんにも大きな影響を与えたと聞きました。

 

異文化に触れ学ぶ事で、自分の島の文化を再発見し、大切にしてもらいたい。都会から遠く離れた絶海の孤島だからこそ、島の子供達には異文化に触れるチャンスを作ってあげたいんです

荒井智史さん(青ヶ島 還住太鼓代表)の言葉です。

 

人と人の出会いと、豊かな心の交流を支える『芸能』の役割りを実感した初めての青ヶ島訪問となりました。

2020年8月17日 荒井親子による還住太鼓(ジョウマンにて)

2019年12月 青ヶ島伝統芸能を通じた国際交流プログラム

二度目の青ヶ島訪問

コロナ禍、日本全国的に活動自粛制限が出されました。青ヶ島(東京都)でも同様に、島の学生達は学校に通えず、自宅で過ごす日々が続いていました。そんな中、荒井智史さんから『夏の祭りとイベントは全部無くなってしまったのですけど、12時間太鼓だけは開催しようと思ってます。新型コロナウィルス対策として全行程を屋外で実施し、参加する方も例年と違い最小限の人数で対応してみようかと思ってます。』との連絡を受けました。

著しく過疎化が進む青ヶ島において、夏の祭りの本番がなくなってしまうのは、地域・郷土芸能を次世代へと伝承して行くのに、大きな打撃だと感じます。勿論「練習」として太鼓に触れることは出来るかもしれないけれど、一つ「本番」と目標に掲げたイベントに向かって準備を積み重ねて行くことは、たとえそれが小さな規模の行事であったとしても、とても大切だと感じています。

12時間太鼓開催の連絡を受けて「コロナ禍で継続する青ヶ島の地域芸能活動」の取材をすることを決心し、8月お盆の時期、青ヶ島での芸能交流と現地取材を行いました。島外者の入島に関する感染症対策などはこちらの記事をお読みください。

昨年12月の島内が活気に満ちた「国際交流プログラム」以来に顔を合わせた島の学生達。一人一人の表情と態度をみる度、コロナ自粛の影響が色濃く出ている印象を受けました。大人も子供も関係なく「やる気」が遠のいてしまう、目に見えない新型コロナウィルスの存在と自粛のインパクト。その難局の中にあっても、太鼓を通して、粛々と人と人とのコミュニケーションの重要性を島の学生に伝えている荒井さん。「長い時間、あなたと私、そして集まる皆で太鼓を叩く」という12時間太鼓の意義を感じ取れました。

2020年8月16日 青ヶ島12時間太鼓

たとえどのような状況下であったとしても『自分の手と足で、自分の心で、相手と向き合い対話をしてみよう。僕らには一つの楽器を二人で叩ける島太鼓の面白さがあるじゃないか。』と、一貫して学生に向け語り掛けられる荒井さんの言葉には、青ヶ島で生きている人間のチカラ強い魂と、音楽を楽しむ心の柔らかな風を感じました。

オンライン交流会

全国的に広がったコロナ禍での祭りやイベントの中止。チェジェチョルが芸能交流を続ける青森県八戸でも同様に、夏のメインイベント「三社大祭」が規模を縮小をして神事のみ催行され、例年新たに作り変える山車の制作も行えず、勿論山車の運行も無くなりました。八太郎えんぶり組親方の三上統さんから、夏の風物が消えてしまった虚しさをを伺いました。八戸には「冬はえんぶり、夏は三社大祭」と一年を通じて地域・郷土芸能を拠り所にして暮らしている方達も多く、例年山車作りに精を出していた、ご年配達も非常に落胆している状況を伝え聞きました。

青ヶ島、八戸、その外の地域でもコロナ禍による影響を受け地域芸能活動が出来ないでいる現状の中、オンラインによる芸能交流会の実施を思いつき、12時間太鼓中「青ヶ島から八戸や韓国をつなぐ交流イベント開催」を荒井さんに打診してみた所、快く受け入れてくれました。

 

島の子供達に、是非、別地域の芸能を見てもらいたいです』との荒井さんの思いも重なり、8月16日「オンライン日韓芸能交流会 from 青ヶ島」が開催されました。(詳しくはこちらの記事)

八戸えんぶり

私は5年前から青森県八戸市の郷土芸能えんぶり(八太郎えんぶり組)に参加させて貰っています。毎年2月、真冬の東北の寒さを体感しながら、笛、太鼓、手平鉦で囃し立てています。年に一度のえんぶり期間中、えんぶり組の子供達が芸能を通じて、どんどんと成長して行く姿を側で見て来れました。私のえんぶり太鼓の師匠はオンライン芸能交流会で恵比寿舞を披露してくれた三上空斗君です。

先生の太鼓を一言では表しきれないのですが『よどみなく、艶やか』そんな言葉が浮かびます。空斗君の太鼓を聞く度、自分の内側で沸き立つものがあります。

 

えんぶりの度にお世話になっている三上さん家。極寒の冬祭り、演者30人程と裏方さんも含めると日毎 50人を超す大所帯で、丸4日間超多忙な門付けスケジュールをこなすえんぶり組ですが、予期せぬトラブルとハプニングが起こります。その度、えんぶり組親方の三上統さん(空斗君の父)から、

まづりだから〜〜いいの! まづりだから〜』と、エールが飛んで来ます。その言葉の響きと声の温かさに、外気で冷えついたカラダと心に、熱を取り戻す経験を幾度となくして来ました。

2020年2月 八太郎えんぶり組

2020年8月16日 恵比寿舞「オンライン交流会」にて

海を越える芸能の輪

韓国ウォンジュ在住の農楽(風物)師イム スンファンさんとは、これまで数多くの共演をして来ました。マツリクロッシング(横浜にぎわい座)、川崎JAZZ、三陸国際芸術祭、青ヶ島国際文化交流プログラムなど、日本各地で韓国の打楽器芸能の実演と紹介、交流活動を共に経験して来ました。

日本語と韓国語での会話。通訳を介しての対話は勿論出来るけれど「相手の思いを言葉だけではなく、全身で感じてみよう〜」とするイムさん。相手の立場、国籍、話す言語の違いを受け止めつつ、共に時を過ごし、共に太鼓や楽器を鳴り響かせてみることで、互いの共通性を探そうとする姿勢にはいつも驚かされるばかりです。

韓国ウォンジュから『メグヨ〜!(皆)』と呼びかけられ、海を越えて一緒に太鼓を叩けました。島の学生達は、昨年の国際交流プログラムで習った韓国芸能の「メクッ(門付け)」で語られる口上 徳談(トッタム)をアレンジし、それぞれのことばで思いを言い放っていました。

2015年1月 イム スンファン「マツリクロッシング」にて

撮影:hiro ugaya

2020年8月16日 イム スンファン「オンライン交流会」にて

コロナ禍に思う豊かなコミュニケーションと芸能の姿

コロナ禍、別地域の人と出会い、密接な交流すること自体がとても難しくなっている今、オンラインツールを使って繋がれる利点は有ると思います。けれど、ただ科学技術だけが進歩して、やれる事ばかりが急速に増えてしまう恐れも、ひしひしと感じています。住む地域や文化圏、生きている暮らしのテンポが、それぞれに異なる環境で、オンラインだからと言って均一的に「せーの、どん!」で、自分の意見ばかりを出し合うコミュニケーションは、人の心に摩擦が生まれ易いと感じています。

私、私たちが思う大事なこと。あなた、あなた達が思う大事なこと

 

誰か人と直接会って対話をしたとしても、なかなか辿り着けない大事な話し。それぞれが大切に思っている事を、誰かに渡したり、受けたりするには、時間が掛かるものだと感じています。

2020年8月15日 「12時間太鼓」の練習中

芸能とは

『芸能とは何だろうか?』コロナ禍、人とコミュニケーションを取るという流れからも、このキーワードを何度も自分自身に投げ掛け、そして芸能に関わる色んな人と話したり、共に音楽を奏でる中で、感じ取ったものがあります。それは「芸能とは自分と相手、自分と社会、自分と先人をつないでくれる橋渡し」という事でした。

 

先人達が培って来た美しい歌、踊り、楽器やリズムに触れること。そして芸の披露に欠かせない道具や装束を大切に扱う事。芸能が生まれたり、受け継がれて来た地域の環境を大事にすること。そこに暮らす人達が先生から生徒へ、先輩から後輩へと芸能を通じて『大事なもの』を受け渡しています。

ひょっとしてアートという領域では、誰からの影響よりも先ず「自分は、こう在る。自分は、こう表現する。」という自分自信の芸やアイデアを強く押し出す姿が「良し」と評価される傾向があるかもしれません。私がこれまでに出会った地域・郷土・民俗芸能の畑の方々や、そして縁が長く続いている方達から、共通して受ける印象がありますが、それは「あなたを思う」という事です。

郷土・地域芸能の現場で音楽を共に演奏する時、譜面をあまり使わないことが多いと感じます。譜面に書いてあったとしても、その時その場の雰囲気で、いかようにでも変化する表現の幅の広さがあるからだと思います。韓国農楽を皆で叩いている時も、えんぶりの太鼓を叩いている時も、全て決まっているようで、実は「遊びの余白」を存分に楽しんでいると感じます。屋外や屋内、熱いや寒い、強風や凪、スペースの広さや狭さ、演奏演舞する環境によって柔軟に対応しながら、その環境にどうやって適応するのか?が芸能の一つの醍醐味だと感じます。

2020年10月25日 ソルチャング「サンモの釣り」

一つの太鼓を二人で、ハタク(叩く)

「アジアをリズムで解きほぐす」一連のプログラムを通して学んだ多くの中で、特筆すべきは、やはり島の太鼓です。荒井智史さんが言うに、伊豆諸島南部の太鼓文化の真髄は『誰とでも即、興にのっちゃうこと(島という環境で人が生き抜く知恵)』なのだそうです。相手の出方や思いをくみ取りながら、自分の音楽と思いを変化させてゆく。

そしてその「相手」とは、人でもあるし、その場や地域かもしれないし、既にこの世を去った先祖達なのかもしません。自分や、自分の音の周りに在る「なにか」とつながり合いながら生れてくる音楽。青ヶ島での現地取材、オンラインでの交流会、配信ライブ本番と準備の過程で、そんな懐の深い太鼓の文化や芸能に触れることが出来たように感じています。

荒井智史と康太の兄弟による「迎え太鼓」

芸能から見えてくる人とのつながり

私は在日コリアン三世として日本に生まれ育ち、20才を過ぎて自分のルーツの民族楽器に触れ始めました。太鼓を叩き始めてこれまで20年間、色んな人との出会いがありましたし、時にはその出会いを避け自分の殻に閉じこもり「自分の太鼓」と葛藤した時期もありました。

今、こうして色んな地域の芸能の仲間や先輩、後輩たちとつながり合いを持ち、互いに心を通わせることが出来ているのは、即興を持ち味とする杖鼓(チャング)という楽器の助けが大きかったと実感しています。

自分の音楽を探し、自分のリズムを求め、自分の思いや理想を表現しようとした時こそ、自分の周りの声に耳を傾け「私はこう思うけど、あなたはどう思うかな〜」と相手へのイマジネーションを膨らませてみたいと感じています。これからも、伝統、モダン、ポップス、アバンギャルド、地域・郷土芸能、そしてアートシーンという様々なジャンルで演奏をしてゆきますが、「あなたと私の大事なもの」をしっかりと受け止めながら演奏表現活動、交流活動を続けて行きます。

 

『芸能』を通じた心の交流する現場の記録映像と特集記事、そして10月25日に行った配信ライブの映像が、活動制限と自粛が続くコロナ禍、行き場が無く「自分一人」で思案し、心の紐がこんがらがってしまっている方に、柔らかく届けば有難いと思っています。

韓国太鼓演奏家 チェジェチョル

2020年10月25日 配信ライブを終えて「公園通りクラシックス」にて

『アジアをリズムで解きほぐす Unravel asia with Rhythm』

~国境・ジャンル・そしてコロナ禍を乗り越える祭りと芸能者たち~」

 

・伊豆諸島 青ヶ島にて還住太鼓の現地取材 2020/8/13~21/

・「青ヶ島12時間太鼓」への参加 2020/8/16

・「日韓オンライン芸能交流会」の実施 2020/8/16

・「配信ライブ from 渋谷公園通りクラシックス」の開催 2020/10/25

 

企画主催:韓国太鼓演奏家 チェジェチョル

協力:青ヶ島還住太鼓、青森県八戸市 八太郎えんぶり組、韓国農楽師 イムスンファン、高橋亜弓(仔鹿ネット)、神野知恵(国立民族学博物館 機関研究員)、荒井康太(音楽家)、横手ありさ(歌手)、永嶋敦(映像配信)、タケテツタロウ(配信音響)、渋谷公園通りクラシックス

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