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国立能楽堂で初めて演じられた韓国の民俗芸能「農楽」(ノンアッ)

2020年1月25日 国立能楽堂(千駄ヶ谷)で「天籟(てんらい)能の会」主催で行われた舞台「のうがくを知っていますか?」が大盛況にて終演しました。日本の伝統芸能である能狂言と、韓国の伝統的な民俗芸能である農楽が海を越えてつながる公演となりました。韓国の農楽が日本の伝統ある国立能楽堂で演じられるのは歴史上はじめての事。この日韓合同を公演についてのレポートです。

<目次>

(筆者 チェ ジェチョル  写真 チャン キョンミ)

農旗(ノンギ)と、ムンクッ(扉の儀礼)

 2019年10月、音楽詩劇研究所「さんせうだゆう」のソウル公演の為、ソウル駅近くのホテルで出演者の吉松晃君と、あれこれと農楽の話しをしていた時、神野知恵さん(韓国民俗音楽研究家)から掛かって来た電話。「ジェチョルさん、来年の1月、国立能楽堂で農楽やるんですけど、出演出来ますか?」という話しでした。余りに突然の話しだったので、ビックリ驚いたのですけど、韓国コチャンからイム ソンジュン兄がリーダーとなって来日公演をするというのだから、これは何としても盛り立てたい!という気持ちから、私は今回の公演第一歩を踏み出しました。

 2019年12月6日 青山の銕仙会能楽研修所で初めての顔合わせを行い、シテ方の清水寛二さん、天籟能の会 奥津健太郎さん、槻宅聡さんにご挨拶をして、2020年1月の本公演に向けての話しをしました。稲作文化や神話に根ざした演目 。日本は半能「賀茂」間狂言「御田」が上演されること。そして韓国農楽は「ムンクッ」「ソンジュプリ」「コッカルソゴチュム」が上演していくなどを話し合いました。日韓戦時中に生まれた負の歴史を背景にした多田富雄氏の新作能「望恨歌(マンハンガ)」の公演を2020年の9月に目指す流れを作るという事も、しっかりと確認しました。日本の能楽と韓国の農楽が出会う特別な公演になることに胸が高鳴っていました。

 今回の農楽チームのメンバー構成。コチャン農楽からイム ソンジュン(小鼓 ソゴ)、パク ヘジン(杖鼓 チャング)、キム ソヌォル(鉦 ケンガリ)の三人をベースにして、在日コリアンのチェジェチョル(杖鼓 チャング)、リュウ スンジャ(銅鑼 チン)、コウ レイナ(旗手)、そしてコチャン農楽保存会員で研究者である神野知恵(太鼓 プク)が解説で出演しました。農楽という、とても幅の広い芸能表現を日本と韓国の海を越えて体現する試みに、大きな期待と不安が入り混ざりながら準備を始めました。

農楽で使う一番の大道具、農旗 ノンギ。まさに農楽を演じる者達の先頭に立ち、旗印を表す役割りです。

『農楽とその集団の象徴を能舞台に立てたい!』
『そして国立能楽堂の13.5m長い橋掛かりを共に行進したい!』

 これらを実現するには、少なからず準備が必要となりました。2.6mある背の高い農旗を吊るす竹は3.5m。この長い竹をどうやって運搬して、どうやって能舞台に立てるのか?能舞台の床、そして鴨居、柱を一切傷付けずに、普段屋外で使う大きな農旗をなびかせる。若々しいエネルギー宿るとされる竹。その3.5mある長い竹を楽に運搬するには分解式の竹台が必要となりました。土台となる2mの竹の上から先端まで伸びる竹を組んで、穴を開けて紐で固定をする。重過ぎる竹だと、一人では持ち運びが難しいから、適度な軽さと耐久性がある竹を選んでみました。そして床に触れる竹の下には、布を何重にも巻いて紐で固定をしました。

 

 本番前日(24日)、青山の銕仙会能楽研修所でリハーサルを行った際、橋掛りを一人で農旗を持って歩けるかどうか?を確認しました。当初、安全面を考慮すると、農旗は農楽隊が能舞台に上がる前に、先に舞台に立てておくという方向性でしたが、農旗の長さ動線を確認してみた所、これは共に行進出来得る!という判断がつき、橋掛りを農旗を先頭に入場できる事になりました。

 能の公演を行う際、シテ方の「おまーーーく」という合図の言葉で、人の手によって持ち上げられる幕。

今回の農楽本番では「문굿 ムンクッ」(扉の儀礼)から農楽が始まりました。農楽隊が鏡の間で楽器を打ち鳴らし

「쥔 쥔 문여소 복들어강께 문여소」(主人 扉を開けよ 福が入るから 扉を開けよ )

「문여소 문여소 문안열면 갈라요ー!」(扉を開けよ 扉が開かなければ 我ら立ち去るぞー! )

という掛け声を言い放った後、バッ!!と幕が上がり、農旗が照明に照らされた橋掛りに出て行き、ソンジュン兄がザーッと出て行ったその後ろ姿見て、何とも言葉では伝えきれないワクワク感に満ちていました。13.5m長い橋掛りを農楽隊が一人ずつ出て行き、本舞台に上がった時に、ついに始まったのだなぁ〜と感じていました。舞台上シテ柱の前、背の高い農旗を持ち立っているレイナの姿を見ながら、共に行進出来て本当に良かったと喜んでいました。

 竹の運搬をする際、タクシーの運転手さんから「何の竹ですか?」と質問をされ、能楽堂で韓国の農楽を演じる事や、タクシーに乗るサイズで竹を分解式にしたなどを伝えると、運転手さんがとても興味深く話しに耳を傾けて下さったのが有り難かったです。