呼吸について

チャングを叩いたり、農楽のリズムの中で腕を振り、踊るには「どのようにカラダを使えばよいのか?」を探って行くと「呼吸」というキーワードが浮かび上がって来ます。人がこの世に生まれ、この世を去るまで、無意識にでも行われ続けている最も根源的な生命維持運動が、息を吸って、息を吐くという「呼吸」と言えます。

 

杖鼓を叩くために大きく腕を振り上げ下す動作の中でも、バチと太鼓が接して「ドン!」と音がなる動作の中でも、体内の大きな呼吸のエネルギーをふんだんに使ってカラダを操作しています。呼吸と太鼓の音がどのようにつながり合っているのかを、解説して行きます。

 

カラダを上半身と下半身の二つに区分けをするならば、全身の中心は腰周辺だと考えられます。人のカラダの内部を見て行くと、腰の体内の骨「骨盤」の周辺とその上には、五臓六腑と呼ばれる内臓や呼吸器官が密集しています。絶えず動き続ける内臓や呼吸器官のチカラを使って、人は呼吸を繰り返しています。太鼓を叩く為、大きく振り上げる腕の動作は、胴体と内臓の働きの結果として生まれてきます。

 

「息を吸う」という行為ひとつとって見ても、人のカラダは様々な部位と器官が総合的に関連しているため、独立して「ここだけ動かせば良い」という事ではないですが、カラダについて、特に目で見たり、直接手で触れられない内臓の話しをするため、感じ取りやすいアイデアイメージも含めて、お伝えすることをご容赦下さい。

天地運動(オグムジル、横隔膜の上昇と落としこみ、丹田へと気を送る)

立ち姿、全身の天地上下動がオグムジルを中心に下半身で行われるとするならば、カラダの内部でも同じように天地上下動が行われています。その体内で起きる天地上下動の中心にあたる部位が「横隔膜」です。肺の下、胃と肝臓の上に位置し、呼吸を行う際もっとも活発に働くカラダの内側にある筋肉です。意識的にも、無意識的にも動くこの横隔膜。人が眠っている時、脳幹から直接信号を受け呼吸をうながしています。

そして杖鼓を打つ時や、農楽など韓国の伝統的な踊りに触れるとき、もう一つ欠かすことが出来ない重要なキーワードがあり、それは「丹田」です。全身の中心点に位置し、人が行う動作の「要」になる部分が丹田と呼ばれます。私はこの丹田について、解剖学的にこの部分が丹田だという考え方ではなく、へそよりもっと下にある「下っ腹」だと大きく捉えています。

 

「カラダの内側で、チカラや気を楽にずっと保っていられる場所」ではないだろうかと、杖鼓を叩きながら経験的に感じてきました。横隔膜が体内で上昇して落ち、そのまま丹田へと息や気を送り込む運動の反復と、下半身のオグムジルで起こす天地上下運動を、調和させたり、ずらしたりしながら、杖鼓を打ち踊り、天地運動をおこなっています。

呼吸(肺呼吸、腹式呼吸、丹田呼吸)

では、実際に呼吸をしながら、横隔膜と丹田の動きについて触れて行きます。

 

①リラックスした状態で立ち、自然に大きく深呼吸をします。

・息を大きく吸った時に、肩があがると思います。そして息を吐く時には、肩が下がると思います。

②肩を上げないつもりで、大きく深呼吸をします。

・息を大きく吸った時に、お腹が膨れると思います。そして息を吐く時に、お腹が元に戻ります。

 

感じ取りやすいアイデアイメージで説明しましたが、

①が「横隔膜の上昇」を使った肺呼吸(胸式呼吸)であり、②が「横隔膜の落下」を使った腹呼吸(腹式呼吸)と捉えています。

 

③次に、腹式呼吸で息を大きく吸い込み、とてもゆっくりと息を吐き続けます。その際、へそよりさらに下の下っ腹「丹田」に力を込めてゆっくりと吐き出します。大きく膨らんだお腹を、内側から外側に圧を掛け続けるように、のチカラを持続させます。この動作が「丹田呼吸」の一種だと捉えています。上半身と下半身のジョイントをし、そして全身のバランスを保つなど、大きなエネルギーを得る呼吸です。

 

④そして、ここからが一番の重要ポイントです。普段チャングを打つ時には、上記の呼吸が相互作用します。歩き、踊りながら、太鼓を叩いている時、例えば肺呼吸から丹田呼吸に移行しながら叩いている場合、カラダの中に一息入れるのが、ほんの一瞬の間です。

 

イメージはジェットコースターです。上昇した横隔膜というジェットコースターの籠が、一気に丹田までズドンと落ちる感覚です。下半身 オグムジルの膝カックンで、体が重力に引っ張られ急激に落ちるように、カラダの内側の横隔膜も同様にエネルギーがたまる下っ腹「丹田」まで、天から地へ向かって速いスピードで落ちて行きます。この引き上げられた「横隔膜」ポジションから、ゴール地点の「丹田」までの息や気の流れで、チャングを打つエネルギーが発動されます。では、この横隔膜と丹田、そして呼吸のそれぞれが、太鼓を叩く動作に、いかにして影響を与えているのかを解説して行きます。

呼吸から 打つへ

『エンジン』

実際に太鼓のバチを握る手、そして大きな音を出そうと振り上げる腕。繊細な作業ができる指先から、重く大きな荷物を運ぶことができる上腕のチカラなど、自由自在に動かすことができる手と腕を、先ず「上半身の脚」とイメージしてみます。「脚=重い」という捉え方をするならば、その上半身の重い脚(腕や手)を動かしたり、上げたり、降ろしたりするには、重機を動かすエンジンのような機関部が必要になると思います。

そのエンジンあたる部分として捉えているのが「横隔膜」や「丹田」であります。腕の大きな動作をする際、カラダの末端の手から動かすのではなく、カラダの中心にあるエンジンのチカラを利用して、大きく腕を振って行きます。

『腕を上げる=翼を広げる』

①リラックスした状態で立ち、横隔膜を上げ肺呼吸で息を吸い込みます。すると自然に肩甲骨(肩)が、真上にあがります。

②横隔膜を上げる際、肩甲骨を左右に広げるイメージを持ちます。すると、胸(胸骨)は上がりつつ、腕が横にあがるというよりは、肘がやや前方の上に動きます。(上腕内旋)(上半身の緊張)

③上昇した横隔膜をストンと落とします。すると吊られていた肘も、連動して重力で落ちます。(上半身の緩み)

 

これが、横隔膜の上昇(肺呼吸)を使った、腕の振り上げと振り下げです。肺呼吸を行う時、息を吸いエネルギーがカラダに溜まる過程を「緊張」状態と捉え、そして息を吐きエネルギー放出する過程を「弛緩(リラックス)」状態と捉えます。

『打つ』

では、いざ太鼓を叩くというアクションに入ります。一旦上に吊りあがった腕が振り下げられ、手で握っているバチが、太鼓とぶつかり合う時に生まれる衝撃を、どのようにして受け止めているのかを、呼吸や体内の視点から解説します。

 

①肺呼吸で息を吸い込み(横隔膜を上げ)、肩甲骨を左右に広げるイメージ(胸は上がりつつ、肩甲骨を開き、肘がやや前方上に動く状態:上腕内旋&上半身の緊張)の状態から

②横隔膜を落としながら、丹田にチカラを込めつつ、広げた肩甲骨を元に戻します。肺呼吸で吸った息を丹田呼吸で吐き出すイメージです。そして横隔膜上昇で生まれた「気」がエレベーター落下して丹田に落ちたその直後に、肘は下がり始め、逆に前腕と手首はカラダの外側に回り始めます。(前腕回外 上腕外旋)

最後に、バチと太鼓が接する「打つ」インパクトの時、カラダの外側にひねっていた前腕と手首を、カラダの内側に巻き込んで太鼓を叩き音を鳴らします。(前腕回内)

 ポイントとしては、丹田のチカラが抜けていると全身や特に上半身のバランスが崩れるので、丹田呼吸で吐き出しをしながら、下っ腹のエネルギーを持続させます。

 

ここまでが ヨルチェ(杖鼓:高音)を使い、따(タ)と一音を出すまでの一連の動作であり、横隔膜や丹田(下っ腹)のエンジンと『呼吸にリンクした腕や手の使い方』の解説でした。

千差万別

右左で形状の違う竹のバチを持ち、両面を叩くチャング。斜めにカラダに吊るしている太鼓の為、独特な腕や手の使い方をしているような印象があります。叩く打面が側面を向いている形状のチャングなのですが、カラダに掛かるストレスがとても少ない叩き方も出来ます。無理に手や腕を上げなくても、竹のしなりを活かして、太鼓の胴を打てば鳴り響くチェピョン(高音)。全身の弾みの流れで柔らかく打ち抜けば自然と音が鳴るクンピョン(低音)。

 

バチを握ったり、一振りする動作の中には、指、手首、肘、肩、肩甲骨など、上半身の腕や手の様々な関節や部位を動かす楽しみが満ちています。各部位を独立させて動かしたり、すべての関節を連動させて動かしたりと、多種多様な腕と手の使い方が出来ます。

 

人の話し方や、歩き方、呼吸の仕方など、千差万別、その人それぞれのカラダの使い方が有るように、太鼓の打ち方についても断定的に決めつけてしまう事ではなく、私がチャングと触れ合ってきた中で、楽に打てると感じ取った打ち方の一つを書き記しました。

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